アップローズキャリア 尾川直子からのメッセージ

2012年度 慶應義塾大学文学部 自主応募制推薦入試の英作文
(2014.07.16)

 小論文を中心にした「総合考査」では英作文を求められることがあります。2012年度の慶應義塾大学文学部の自主応募制推薦入試では内田樹さんの神戸女学院大学での最終講義の一部を英語(もしくはドイツ語、フランス語、中国語)に訳すという課題が出ました。

 【設問3】
波線部(a)を英語、ドイツ語、フランス語、中国語のいずれかに訳しなさい。

波線部(a)
僕は彼らに反論しようとしたけれども、ではこの建物のどこにどんな価値があるのかということを説得力のある言葉で彼らに説明することはできませんでした。そのときの悔しさを今でも覚えています。

 アプローズキャリアでは、慶應義塾大学を目指す皆さんのために模範解答を作成しました。日本文をうまく解釈して、以下に示す2つ目レベルの英文が作れれば十分合格点をもらえます。
 なお、「日本文の解釈」のポイントは「英訳しやすい日本語にする(=和文和訳)」ことですが、これは簡単に言えば「小学校低学年の子にも分かるような日本語にする」ことに相当します。例えば(a)の「反論する」は辞書的にはcounterやrebutですが、受験生の語彙レベルを超えてしまいます。しかし、「言い返す」と《和文和訳》することができれば、argue backと思いつく可能性は高くなります。

【設問3…逐語訳に近い堅めの英語】
I tried to counter their words, but could not give a convincing argument of how valuable this building was and why it was so. Even now I remember the frustration I felt then.

【設問3…意味を取って、やや意訳したもの】
I tried to argue back, but I couldn't explain to them in compelling words what was so important about this building. I have never forgotten how frustrated I was at the time.

【設問4】
波線部(b)を英語、ドイツ語、フランス語、中国語のいずれかに訳しなさい。

波線部(b)
僕たちはいつだって実はもう「存在しないもの」と関わっているわけです。人がすでに言い終わった言葉を聞き、人がまだしゃべっていない言葉を聞くのが、話を聞くということなんです。

【設問4】では、「実は」「もう」の扱いが悩みどころとなります。<「実は」も「もう」も「存在しないもの」にかかっているようでいながら引用符の中に入っていない>ということで迷うのですが、後続の文章に「もう存在しないもの」とあるので、「実はもう存在しないもの」と解釈できると考えたのが一例目です。
 二例目では、「実は」を文修飾と考えてIn factとし、「もう」も敢えて「存在しないもの」から分離しました。(<「もう」だけでなく「まだ」も本来は必要なのだから>というのも理由です。)こちらの方が直訳に近いので、受験生には書きやすいかもしれません。
 (b)後半の「○○が、△△なんです」という表現は、一見「○○が」が主語のように見えますが、この「が」は《新情報》を示すものなので、英訳ではいずれも文の後半に来るように設計しました。

【設問4…逐語訳に近い堅めの英語】
We are always dealing with "what is in fact already gone." Listening to other people means listening to words that have already been spoken, and to words that are yet to be spoken.

【設問4…意味を取って、やや意訳したもの】
Indeed, we are always in contact with "what does not exist" anymore. When we listen to other people talk, we are listening to words that they have already finished saying, and words that they have not said yet.