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岩手医科大学(2014)とファインマン

今年の医学部入試がスタートしました。

数年前から、私立の医学部は互いに入試日程を調整しあうようになり、「なんとしても医学部に行きたい」という人にとっては連日受験という厳しい日程となっています。
今年も、1/21(火)の愛知医科大学からほぼ毎日のようにどこかの大学の入試があるような状況です。

さて、医学部の入試問題はその多くが非公開(試験後、問題が回収されてしまう)なのでなかなか復習に役立てられないのですが、英語に関しては、ときとして問題文に示されている出典や、いくつかのキーフレーズを覚えていると、原典の文章がわかって問題が再現できることがあります。

昨日(1/22)の岩手医科大学の英語でも、そういう問題があったので紹介しておきます。

In order for physics to be useful to other sciences in a theoretical way, other than in the invention of instruments, the science in question must supply to the physicist a description of the object in a physicist’s language. They can say “why does a frog jump?,” and the physicist cannot answer. If they tell him what a frog is, that there are so many molecules, there is a nerve here, etc., that is different. If they will tell us, more or less, what the earth or the stars are like, then we can figure it out. In order for physical theory to be of any use, we must know where the atoms are located. In order to understand the chemistry, we must know exactly what atoms are present, for otherwise we cannot analyze it. That is but one limitation, of course.
There is another kind of problem in the sister sciences which does not exist in physics; we might call it, for lack of a better term, the historical question. How did it get that way?

これは、かの有名な『ファインマン物理学』の第1巻第3章(The Relation of Physics to Other Sciences)が出典です。(全文はこちら。今ではCalTechで全文が公開されています。)
空所補充に加えて指示語問題、下線部和訳と出題されたわけですが、こういう英文はこれまでの受験勉強の中でも目にしていたことがあるはずです。というのも、ファインマンの文章というのは科学的であると同時にくだけていて読みやすく、入試問題の出典として非常に使い勝手がよいからです。

今回、生徒から試験問題をヒアリングしている際に「物理についての文章だった」に加えて「カエルのジャンプがどうのこうの…」と聞いた段階で、ユーモアを織り交ぜて科学について語っている点はファインマンっぽい文章の流れだな…というのは感じましたが、調べてみると本当にファインマンだったことにはびっくりしました(笑)
『ファインマン物理学』はこの世に出てから50年経ちますが、古くなったとは言え、今でも人気の高い物理の教科書です。説明が丁寧でわかりやすいことに加え、ファインマン自身の個人的な感想をちりばめた率直な文体であるため、非常に親しみやすいのです。
全3巻の末尾に、ファインマンはこのように記しています。

Feynman’s Epilogue
Well, I’ve been talking to you for two years and now I’m going to quit. In some ways I would like to apologize, and other ways not. <中略> So, for the two or three dozen who have understood everything, may I say I have done nothing but shown you the things. For the others, if I have made you hate the subject, I’m sorry. I never taught elementary physics before, and I apologize. I just hope that I haven’t caused a serious trouble to you, and that you do not leave this exciting business.

教科書の最後に「もし物理が嫌いになったりしたのなら、ごめん」と謝る教授も珍しいでしょう。その一方で、ファインマンがいろいろな場で繰り返し説いている《いい意味での科学至上主義》もこの中に含まれています。

I wanted most to give you some appreciation of the wonderful world and the physicist’s way of looking at it, which, I believe, is a major part of the true culture of modern times.
私がもっともしたかったのは、この素晴らしい世界の様子をみなさんに受け止めてもらうことでした。そして、現代における本当の文化の主要な部分を占めると私が信じている、物理学者の世界観を伝えることでした。

科学とは人類が勝ち得た宝であり、文明の根幹をなすというファインマンの考えは純朴すぎるのかもしれませんが、科学者が純真さを失わずに科学を追求できなくなったら、人類の進歩はどれほど停滞してしまうことでしょう。
ファインマンのエピローグは、次の言葉で終わります。

Perhaps you will not only have some appreciation of this culture; it is even possible that you may want to join in the greatest adventure that the human mind has ever begun.
もしかしたら、あなたはこの文化を受け止めるだけではないかもしれません。人類の頭脳がこれまでに始めた中で最高の冒険に、あなたも加わりたいと思うことだって、あるかもしれないのです。

こうして物理学(科学)への誘いをもってこの教科書は閉じます。やはりイイですね、ファインマンは。こういう熱い思いに触れると、自分も何かに熱中したくなります。

さて、このファインマンですが、素晴らしい物理の教科書を書いた人であるだけでなくノーベル物理学賞を受賞してる超一流の物理学者でもあり、さらには奇人・変人としても大変に有名な人だったりします。彼がいかに突飛な発想をもって日々を過ごしていたかを知ることのできる、楽しいエピソード満載の本を紹介しておきます。

原著で読めると、もっと楽しいかもしれません。若干語意面で苦労することもあるかもしれませんが、基本的には「聞き書き」で作られている本ですし、言い回しも平易なのでオススメです。ファインマン自身の言葉(文体)は、いかにも茶目っ気あふれた感じがして、何気ない文でもクスッと笑ってしまいます。

岩手医科の入試から、つい脱線してしまいました。
受験生諸君が怒濤の入試日程を全力で切り抜けてくれることを願っています。