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Only Time Will Tell (Jeffery Archer)

Kindle Paperwhite を買って以来、英語の本を原書で読むことが増えた。電子書籍のいいところはちょっと自信が持てない単語をすぐにその場で調べられることで(単語をダブルタップするだけでOK!)、そのおかげですいすいと読み進められる。

そんなこともあって近年にないハイペースで読めたのが Jeffery Archer の最新大河小説シリーズ The Clifton Chronicles 1である。
原書は2011に出版され、毎年1作のペースで現在3作目まで出ているのだけれど、日本語訳もつい最近『時のみぞ知る』というタイトルで新潮文庫から上下巻で出版された。

  

公式の紹介文は以下の通り。

1920年代、イギリスの港町ブリストルに住む貧しい少年ハリーは、サッカー選手か世界を旅する船乗りを夢見ていた。しかし、意外な才能に恵まれ、進学校へ進んだ彼は、富裕層の御曹司たちから再三いじめを受ける。やがて名家出身のジャイルズという親友を得るが……。『ケインとアベル』より30余年、貴族と庶民の生きざまを描いた著者畢生の最高傑作。壮大なるサーガ、ついに開幕!

主人公の名前がハリーなのはまるでハリー・ポッターを思わせるが、これは英語では「太郎」くらいに相当する一般的な名前。”every Tom, Dick and Harry” で「誰でも彼でも」と意味するくらいで、そこからこの主人公は「普通の人」という設定がされている感じがする。まぁ、アーチャー作品ではそういう「普通の人」が地道に努力しているうちにぐいぐいと出世してしまうことが多いわけだが(笑)

さて、アーチャー作品を原書で読むのは久しぶりだが(たぶん『カインとアベル』以来)、今回読んでみて思ったのが「仮定法が多いな」ということ。
文章の冒頭からして仮定法である。

This story would never have been written if I hadn’t become pregnant.

この作品は、主要登場人物が代わる代わる一人称で語り継いでいく形式を取っているから「もし○○だったら…」と思うことは少なくないのだろうけど、そういう内省的な描写が多いので「目に見える行動」と「心の中の思い」がうまくクロスオーバーして物語の進行が理解しやすく、スピーディに読み進められるのではないかな。
しかも、目次を見ればわかるように、「代わる代わる一人称」と言っても時代はそれぞれ微妙にオーバーラップしている。

  • Maisie Clifton 1919 (prelude)
  • Harry Clifton 1920-1933 (Chap.1-10)
  • Maisie Clifton 1920-1936 (Chap.11-19)
  • Hugo Barrington 1921-1936 (Chap.20-26)
  • Old Jack Tar 1925-1936 (Chap.27-34)
  • Giles Barrington 1936-1938 (Chap.35-43)
  • Emma Barrington 1932-1939 (Chap.44-47)
  • Harry Clifton 1939-1940 (Chap.48-56)

(Maisie:Harryの母、Harry:主人公、Hugo:Gilesの父で、かつ敵役、Old Jack:Harryの師匠、Giles:Harryの親友、Emma:Gilesの妹)
こうすることによって、同じ出来事を《複数視点》から描写することが出来るわけで、「実はそういうことだったのか!」という読みながらわかっていく快感もあり、その構成が上手い。芥川龍之介の『薮の中』というより、タランティーノの『パルプ・フィクション』や内田けんじの『運命じゃない人』のような面白さがある。
もともと一人称形式というのは、《神の視点》で書かれる小説よりも内面の描写が自然にできるわけで(佐藤賢一のようにそれを独特の方法で乗り越えてる作家もいる)、この作品ではそれが素晴らしくうまくハマっていて、ページを繰る手が止まらなくなる。

ストーリー自体は、主人公の自助努力による成功譚というより、善良な主人公が悪環境にもかかわらずすくすくと伸びていき、周囲の善意によって数々の悪条件をクリアしていく、というもので、どこか夢物語的。そういうところも、いかにも通俗小説的といえようか。

20世紀前半のイギリスの空気を感じることもできる佳作だと思う。オススメ。

★★★★★