アナウンサーになって良かったこと その1(2012.11.05)
「アナウンサーになって良かったことは何ですか」という質問をよく受けます。良かったことについて、少しずつ書いていきたいと思います。
一番良かったのはアナウンスメント技術を教えていただいたことです。第一志望の熊本放送がアナウンサー職ではなく、総合職としての採用を行うということでしたので、私はアナウンスメントについては何一つ学ぶことなく入社しました。入社後に「アナウンスの研修を2カ月ぐらい行います」と聞いても、「2カ月も何をやるんだろう」と思っていたぐらいです。
4月1日に入社し、最初の約3週間は一緒に入社した7人と、熊本放送の社員としての研修を受けました。テレビ制作部やラジオ制作部で番組制作の過程を見たり、報道記者に「記者クラブ」に連れていってもらったり、営業マンの後ろを歩いて広告代理店にお邪魔したり…。そして、4月の最終週にアナウンサーが所属する「放送部」に出社しました。
アナウンスメントの研修はまずは腹式呼吸からでした。放送部に一緒に配属になった子は合唱経験があり、学生時代にアナウンスを勉強したこともあるらしく、腹式呼吸をマスターしていましたが、私は初めてでした。高校時代に合唱コンクールなんていうイベントがありましたが、私はピアノ伴奏だったので、合唱した経験すらほとんどなかったのです。腹式呼吸は一瞬で鼻から息を吸い、口からゆっくり吐きます。これは意外に難しいんですよ。それでも腹式呼吸はなんとかマスターしました。
次は発声です。腹式呼吸と発声を連動させることが、不器用で身体能力の低い私には苦労の連続でした。それで、身体に負担をかけながら発声していたようで、5月の終わり頃だったでしょうか、ついに喉を痛めてしまいました。全く声が出なくなり、もうアナウンサーになれないのではないかと落ち込みましたが、いい耳鼻咽喉科を紹介していただき、先生方の温かい治療を受けられて、意外に早く回復しました。その間、大きな声が出せないので、小さい声でぶつぶつとテキストを読んでいたのですが、この練習は良かったようで(邪道ですが…)、滑舌に苦手意識がなくなりました。
声が出るようになってからは急ピッチで研修しました。ニュースを読む研修、天気予報を読む練習、CMを読む研修、提供枠(「この番組は○○の提供でお送りします」というアナウンス)を読む練習などなど、アナウンサーの仕事は多岐に渡っているので、研修も様々です。得意な音もあれば、苦手な音もあり、スムーズに読める原稿もあれば、苦労する原稿もあって、ピアノの練習と似ているなあと思っていました。
前の音と次の音が「癒着」を起こせば、べちゃっとした音になってしまいます。一音一音、正しく口を開け、次の音に移るときに素早く口の開け方を変えていくことで、音の癒着を防げます。そのためには、音ごとの正しい口の開け方をマスターしなくてはいけません。
「アナウンサーの研修って、早口言葉の練習をするんですか」という質問もよくいただきますが、早口言葉だけを練習することはありません。滑舌の練習のためのテキストに早口言葉も少し載っているので、テキストの課題の一環としてやってみるということはあります。早口言葉を練習しなくても、滑舌の練習がきちんとできていれば、自然と早口言葉を言えるようになっているんですね。
アナウンスメント技術は視聴者に情報を正確に伝えていくために不可欠のものです。今日は呼吸と発声の話で終わってしまったので、正しいアクセントやイントネーションをどう学んだのかについてはまたの機会に述べたいと思います。