アップローズキャリア 尾川直子からのメッセージ

アナウンサーになって良かったこと その2(2013.02.18)

 前回のこのテーマでは「アナウンスメント技術を教えていただいたこと」だと書きましたが、正しいアクセントやイントネーションをどう学んだのかについては次回にというところで終わってしまいました。

 私は山口県下松市で生まれ、4歳から高校卒業までは岩国市で育ちました。父は山口県出身ですが、大学だけ東京で過ごし、母は転勤族の子どもで、お嫁に来るまでは東京に住んでいました。私が小さい頃までは両親は標準語で話していたので、方言だけで育つよりは良かったのかもしれません。でも、中学校、高校と進むにつれて、私の岩国弁はとことん進化(深化?)していってしまいました(笑)。高校3年生のときだけ、標準語を話す友達が何人かクラスメートにいて、少し修正されたように思います。

 熊本大学に進学してみると、今度は九州出身者ばかり。最初は標準語っぽく話していましたが、浮いているような気がして、見よう見まねで九州弁ふうに話し始めると、これはこれで止まらなくなってしまったのです。

 そんなわけで、アナウンサーとしての研修が始まったとき、先輩方からよく笑われていました。私が最後まで直らなかったのが「後ろ」と「ピアノ」のアクセントです。本当は両方、「平板」と言って、アクセントを付けずに発声するのですが、岩国弁だと「後ろ」の「う」と「ピアノ」の「ピ」にアクセントを付ける「頭高」になってしまいます。(岩国弁と関西弁はかなり違いますが、関西人の友人も「後ろ」と「ピアノ」に関しては頭の音にアクセントがありますね。)

 こういう訛りをどう直していったのかというと、先輩アナウンサーの読むニュースやNHKのニュースをたくさん聞き、自分が考えているアクセントとは違うアクセントが出てきたときにすぐにアクセント辞典を引き、正しいアクセントを覚えるようにしたのです。

 特に岩国弁の場合は頭にアクセントを付けてしまうことが多いので、「私が頭高で言っているものは本当は平板なのでは」という疑いを持つことを意識しました。

 アクセント辞典はいつも手元に置いていたので、何年かですぐにボロボロになりました。早稲田セミナーで講師をしていたときにご一緒だった、元毎日放送アナウンサーの高村昭先生が私のアクセント辞典を見て、「手垢なんてなさそうな尾川先生なのに、この辞典は手垢だらけですね」とおっしゃったこともあるぐらいです。

 正しいアクセントを学ぶためには国文法の知識も不可欠なので、アクセント辞典の後半のページも読み込みました。アナウンサーを目指すのであれば、日本語学に興味を持つことも大切だと思います。

 たまに「地方出身だけど、アナウンサーになれますか」、「家族も関西弁しか話せないんですけど、大丈夫ですか」という質問を受けます。テレビのニュースをしっかり見て、ラジオのニュースをしっかり聞いて、アクセント辞典と友だちになれそうな人であれば大丈夫です。

 方言を何とか克服した私が力になりますので、恥ずかしがらずにご相談くださいね。